クラシカルロマンスの傑作にしびれる
「憂鬱な朝」
著者:日高ショーコ
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【公式紹介文より】
憂鬱な朝、この大作がついに完結いたしましたね。
連載開始から10年の歳月を費やし8巻完結。BL漫画、屈指の名著と言える壮大な作品となりました。
冷淡で有能で美しい子爵家の若き家令(執事)、桂木に堕ちない腐女子はいないでしょう。
貴族階級という今の世にない世界観もさらに物語に重厚さを肉付けし、どっぷりと浸ってしまいます。
壮大に広がった物語の数々の付箋を、どう収拾つけるのだろうかと思っておりましたが、圧巻の最終巻。
素晴らしい!拍手喝采。
ここまで収まりをつけるって全て緻密なプロットのもと創作しているのでしょうね。漫画家って、話も考えて絵も描くわけでドンだけ才能必要なんだか、ここまですごい世界観を仕上げられる日高ショーコ先生はまさに雲の上の存在ですね。爪の垢頂きたい、あやかりたい。
明治初期という時代背景も興味深い。スーツなんて、特権階級の御召し物と思いきや、脱いだらふんどしだったり、ちょ‥ふんどしっ!鼻血っ
桂木は久世子爵家の跡を継ぐために引き取られて教育されて養子となる寸前で、実子(暁人)が誕生したことによってそのレールを阻まれた。暁人はまさに邪魔者で…憎むくらいの対象だった。
久世家のため、必要があれば西園寺公爵家の嫡男とも、森山公爵夫人とも、桂木はその身体を差し出す事すら躊躇しない。その桂木の妖艶な魅力に皆が虜になる。
幼いのに父を亡くし暁人は、わずか10歳で襲爵。厳しい桂木の指導に耐えながら、時代の流れに順応した久世家の跡取りとなるために勉学に励んでいる。桂木の理想の当主になるため、桂木を慕い憧れるが彼の態度は冷淡そのもの。それでも追いかけて、追いかけて…その気持ちはいつしか恋心へと変わってしまう。
桂木の冷たい言葉
私は「あなた」のために動いたことなど一度もありませんよ
全ては「久世家」のため。久世家の家格を上げるため。
言っておきますが私の主人は先代おひとりです。
あなたが成人するまで全ての権限は私にある。
私に命令したければ、もう少しお利口になってからにして頂きたい。
暁人の決意
初めて会った時から僕には桂木しか見えていない。
桂木が僕を認めることも好きになることも一生ないとしても、それでも好きだ、どうしようもない。
この先もずっと桂木が側にいてくれるなら
手に入れられなくてもせめて一緒にいられるなら
僕はきっと何だってできる.
幼かった暁人が、凛々しい子爵様へと成長していく様が眩しすぎる。それもこれも桂木に認めて欲しいからこそ。子爵家のこれからについて反発しあう二人が、共にで生きていく道を模索し、いつしか愛を育んでいく。まさにドラマティックという言葉がふさわしい。BLというジャンルを超えて、様々な人に読んで欲しい大作です。
桂木への想いも子供っぽく独占欲丸出しだった暁人が、したたかに、優しく、駆け引きさえ心得、あの不落城の桂木を堕としていく様がたまりません。
一途に人を愛する尊さを暁人に、愛だけでは人生を乗り越えて行けない厳しさを桂木に諭される、長編だからこそじっくりと描かれる様々な人間模様。
扉絵もどれも素敵です。
日高ショーコ先生の描く男子はスーツがお似合いですよね。そして主従ものの官能的なこと。
「旦那様、それはご命令でございますか?」
「私は一生涯あなたに仕えます」
「本日はご容赦いただけませんか、全くそんな気分になれないのです旦那様」
はァ(溜息)。でもね暁人もね、自分の命令で桂木を縛り付ける対価を払おうとするわけです。爵位を上げるため、桂木が用意した縁談、名門、佐条家との政略結婚を進めろと受け入れる。
暁人の台詞
お前が…自分を殺して僕の側にいるように、僕も自分を殺さないとな。
僕の一部が死んでも、残りがお前の傍にあればいいんだ
何という覚悟。何という愛の告白か。この真っ直ぐな愛が、氷のような桂木の冷淡さを溶かしていくのです。
御家を守っていくことの責務の重大さと、惹かれあっていく二人の葛藤と。身軽ではない身分は気持ちだけではどうしようもない事柄が溢れていて…
二人の関係を見て、暁人の友人である実業家の長男、石崎総一郎は呆れた溜息と共にこう呟く。
お前たちは矛盾の塊だな
言っていることとやっていることが
いつもバラバラだ
そう、バラバラなんですよ、最後の最後まで。でも最終巻はかなり甘い。これは8巻まで二人を見届けた読者への贈り物なのですね。やはりハッピーエンドというのは心地良いし、それもこの先の明るい未来を予感させる眩しいほどの幕引きなのです。拍手、拍手。
さあ、ビロードの光沢で包まれているような雰囲気が匂い立つ「憂鬱な朝」、思わず抱きしめて頬ずりしたくなっちゃうのです。クラシカルロマンスなんて言葉が相応しいこの長編を知らないままでは腐女子の名が廃れます。長編漫画を追いかけてたら、盛り上がるのは最初だけであとはたいしたことなくって損した気分…なんて過去ありましたか?ケロにはあります。でも「憂鬱な朝」はそんな心配はご無用。最終巻を読んだらとりあえず深い感嘆の溜息をこぼし、思わずこの余韻に浸りながら二人の出会いの一巻目ををすぐに眺めたくなる、そんな作品でございます。