初めてで、てさぐりの恋
山田と少年
著者:三田織
無料立ち読みもあるよ
クリスマスの夜、仕事帰りの山田(26)は、泣きながら酔っ払っている男子高校生・千尋を拾う。彼は、同性に惹かれてしまうことを悩む少年だった――……。ノンケの社会人と、ゲイの高校生。偶然出会った二人が性別を超え少しずつ心の距離を縮めていく三田織、待望の長編作。【公式紹介文より】
普通の社会人(山田)と普通の高校生(千尋(ちひろ))の恋。
千尋は親友に彼女ができて初めて親友が好きだったことに気づき、ゲイである自分を自覚しショックを受ける.
男が好きな自分への嫌悪感で、親の缶チューハイをかすめて公園の木陰でやけ酒を飲んで泣きべそかいていた。こんな、人生最悪な日に、人生最高の出会いがあったりするんだね。
はじまりは全然ロマンチックじゃなくて、公園の垣根の影で、酔ってへべれけになって倒れている高校生を雪の中ほっとけなくて、山田がひぃひぃ言いながら背負ってアパートへ連れ帰ったのが出会い。
男を好きになっちゃって失恋したという千尋の話に引いてしまい、励ましの言葉もかけそびれてしまったが、なんだかほっとけなくて、アパートに遊びに来る千尋を迎え入れるように。
山田は面倒くさいことが大嫌いで、不精で26歳なのにおじさんで、全然かっこよくはない。
でもね失恋したばかりの千尋が山田に心動くのもわかるよ。
だってさ、ぶっきらぼうだけど優しいんだよね。
初詣で「オレの恋愛運千尋にあげてください。あいつがいい男と巡り会えますように」って祈願したり。父が亡くなって働く母を支える為に、家事を手伝って小さい弟妹の世話もする、いいお兄ちゃんの千尋に、俺に甘えればいいって居場所を差し出してくれたり。
本当は年上&ボインの彼女がいつも定番だったのに、胸なんて当たり前だけどまっ平らの、しかも男子高校生の千尋に…
たまたま千尋の高校に空調設備の点検の仕事で来て、校庭で友達とサッカーをしている千尋を見かける。山田に見せていた顔とは違う千尋がそこにいた。フツーの幸せな、女子が好きな男子にみえる千尋が…。でも山田は知っている、本当は泣き虫で乙女で「ばらミミ」(恥ずかしいと耳が赤くなる)を隠し持っている千尋を。千尋、俺がいないと、どこでそれを出すんだよ、と窓から校庭を眺める山田。
この作品は心情の描き方がとても繊細です。感情移入してしまい胸が詰まりました。
山田の心の中
千尋が遠くの見えないところで無理して笑うくらいなら
すぐそば目の前で泣かれるほうがよっぽどいいと思ってしまったりする。
俺、面倒なこと嫌いだった筈なのに
男に興味なんてなかったはずなのに
この子がいとしいとか、へんだな。
あのクリスマスの夜、俺は本当に面倒なもの拾っちゃったのかもしれない。
男子高校生に恋されるという面倒を
そしてその子を傷つけたくないという面倒を
千尋は料理上手で、薬学部目指すくらい頭も良くて、いつもいいお兄ちゃんで…でもそんな千尋が山田には泣き顔も乙女なミミバラもさらけ出して本当に可愛い。自分はゲイだけど山田は違う。うまくいくのだろうか、身体を見たらやっぱり違うって思われるんじゃないだろうかと不安も沢山。でも、山田の何とかなるさのおまじないに、身を任せる二人。
表紙の優しい水彩画チックな雰囲気そのままの作品です。全然さえない山田が、本を読み終わる頃には山田のような人と出会いたいとまで印象が変わります。読後感の余韻が長い。何だか浸ってしまいます。初めてで、てさぐりの恋。惹かれあっていくさまをここまでじっくりと丁寧に描いている作品は他にない。
当たり前の戸惑いや葛藤。でも自分の心を信じて男同士の恋愛を育んでいく。
この話は続編があります
ばらのアーチをくぐってきてね【山田と少年 番外編】
著者:三田織
50ページ程度のその後の物語。あぁ、見れて良かったよ。千尋は大学生になっています。そして二人の空気もラブラブだけどさらに絆が深まり当たり前の存在になっている雰囲気が素敵。
そんでね、恋する乙女な千尋もねやっぱり男気を見せるんだよ。
千尋の覚悟
俺大学でしっかり資格とってちゃんと就職してお金稼ぐから。
そしたらいつか二人で…
山田もね、さらに男っぷりをあげていましたよ。先輩の結婚式の帰り道、千尋とのことを知っている友人にお前らこんなに続くと思わなかったけどどうなの?と聞かれ、「俺はもう腹をくくっている」と答える山田。
や~ま~だぁっっ、本当にアンタはイイ男だわ。やっぱ男はハートだよね。腹くくった男はカッコいいね。花嫁から受け取ったブーケストを千尋にあげる、いや、そうね、うん、プロポーズだよねそれって。
まだまだ大学生になったばかりの千尋と山田はもうずっと二人で生きていく覚悟を決めている。それが全然違和感なく、自然なことと思える。
どこにでもいる平凡な二人の恋物語が、そんじょそこらのシンデレラストーリよりキラキラ眩しくって、切なくって、苦しくなるほどに愛おしい。繰り返し何度も読みたくなる良作をどうぞ。