愛するって素晴らしい!
500年の営み
山中ヒコ
無料立ち読みもあるよ
世話係として起動したアンドロイドは優しく親身になってくれるものの、亡くした恋人の“3割減”な残念ロボットで――?
いじっぱりな青年が愛を受け入れ希望を求めて歩き出す、痛切な未来ラブストーリー。
あなたの右手でアンドロイドの頭をゆっくり三回撫でてください。
たったそれだけで
あなたの生涯のパートナーが目覚めます。
心変わりすることなく、自分だけを愛し続けてくれるアンドロイドの話は他でもいくつか読んだことがあるけれど、今回は死んだ恋人代理の出来損ないアンドロイドと育む愛の物語。
アンドロイドが愛してくれるのはプログラムだから当たり前なのですが、少しひねくれ者の主人公、寅(とら)が不器用ながらに心を許していく過程が素敵です。
幼馴染で恋人(男)の死を知り、自殺未遂で植物状態になった寅。
両親は、全財産を投じて技術が進化して寅の脳手術が可能になるまで冷凍保存すること。
そして目覚める時、寅の恋人、太田光にそっくりのアンドロイドを用意すること。を、希望した。
アンドロイドの名はヒカルB。
恋人の光の代わりのくせに、顔もスペックも実物の三割減の出来損ないのアンドロイド。
500年先の未来まで続く、壮大な世界観。あまりSFとか読み慣れないので、最初の一読は設定がつかみきれなかったところもあったのですが、電車の中でじっくり再読して、危うく泣きベソをかくところでした。
深い話なんだなぁ。大人の絵本といった雰囲気もある。
250年眠って
たった半年を共に過ごした
また250年眠って
目が覚めた時にはいなくなっていた
2人共、いつか一緒に行こうと約束した地で再会できると信じて行動する。
寅が再び眠った250年を、ひたすら寅との小屋を作るために過ごしたヒカル。
アンドロイドだから時間の経過が人間とは違う。違うんだけど…
何度も夜が来て
何度も朝が来て
アンドロイドだから…でもさ、でもさ。
涙を誘うのは人間の寅が、もっと恋人に瓜二つの新しい完璧なアンドロイド、ヒカルAをあてがわれても、不用品として消えてしまった出来損ないのヒカルBをいつまでも想っていること。
人は古い車から新しい車に乗り換えて産業を進化させて来たのに、どうしてヒカルAではなくあんな出来の悪いヒカルBにこだわるのか。
足を失ったヒカルBを背負って歩く寅に、アンドロイド相手にこんなことはする必要がないとヒカルBがたしなめる。
ヒカルBの台詞
こういう事は人間相手にやったらいいんだ
ロボットにはやらなくていいんだよ
とらさんは授業で寝てたからロボットの扱いがわかっていないんだ
トラの台詞
人間は
ロボットだろうが
使用済みの切手だろうが
犬だろうが
金魚だろうが
好きな奴のためにはこうしてしまうものなんだ
幼馴染の光を愛して、その死に絶望しビルから飛び降りた。
出来損ないのヒカルBを愛して、1パーセントの望みをかけて彼を探しに約束の地に向かった。
人の愛は移ろい、でも時に命をかけるほどに魂を揺さぶる。
この作品は愛について、深く深く考えさせられます。
誰も知らない未来で目覚めた孤独な寅を癒すヒカルBは、プログラムに従って行動しているだけかもしれない。
でも、2人の間に芽生えていくものは、それでも紛れも無い愛。
ケロも欲しいな、アンドロイド。
おもちゃの扱いなんてしないから。
すごく大事に大事に愛しちゃうから。
人によっては、機械相手に虚しいとか、思うかもしれないけれど、寅とヒカルBの絆を見たら、憧れてしまうよね。
寅の声を懐かしむヒカルB
あーぁ。…俺も人間だったらいいのになー!
人間だったら
きっと
きっと
ソラミミが聞こえるのにな…
SFというジャンルで見ると、結構突拍子ない展開もあったりで、違和感を感じたりすることもあるんだけど、ま、そこいら辺は深く考えなくスルーしましょう。でも、ん?と思うからこそ繰り返し読んで、理解を深めていくのも楽しい。
出会った頃は出来損ないのヒカルBに、「本物より劣るってどういうことだよ」と、毒づいてばかりの寅だったけど、最初から死んだ恋人にそっくりなヒカルAが来ていたら、寅は立ち直れなかったかも。
出来損ないだこらこそ、ツッコミどころ満載で、いつしか恋人の模造品だなんて意識も薄れて、ヒカルBらしさを愛してしまえたのかも。
とらさん、好きだよ
…俺も好きだ。だから一緒に帰ろう
あぁ、感情移入しすぎて、胸が痛みます。でも、嫌な痛みではない、扇情的で…切ない余韻に浸っていたい。
表紙も素敵ですね。何だか星の王子さまを連想させます。
この作家さん(山中ヒコ)の作品は初めて拝見しましたが、他の漫画も読んでみたいなぁ。楽しみだなぁ。
最後の最後、ハラハラしますが、ハッピーエンドっぽい終わり方で嬉しくなった。
あまり他にない世界観。たまにはこんなジャンルのBL漫画もいいのでは。自分の愛の価値観を気付かされる、そんな大人の童話です。
山中ヒコ【アンドロイドと育む愛の行方】BL 漫画 感想