掘り出し物とはこのような良作をいうのです
執事の分際
著作:よしながふみ
無料立ち読みもあるよ
革命期フランスの動乱の中、名門貴族に仕える切れ者執事・クロードと、贅沢に慣れきった美しい主人・アントワーヌの甘く密やかな恋愛劇。身分違いの、それ故に熱く切ない二人のロマンスを完全収録【公式紹介文抜粋】
BL 漫画 感想【身分違いのロマンスに酔いしれる】執事の分際/よしながふみ
巨匠という言葉がにあうBL作家はこの方以外にそういないでしょう。
控えおろう、「大奥」の著者でもあるよしながふみの登場です。
BL漫画も手がけていることを知る人はそんなに多くはないかもしれない。
手塚治虫文化賞大賞、講談社漫画賞など、他、数々の賞も受賞し、ドラマ化された作品もあるという大作家様でございます。
古い作品が多いので、BL暦長い方でも見落としているまさに大穴。
ケロのブログを訪れて初めてこんな素敵な作品に出会えた!
と言って頂けるよう、新旧問わず良作を案内いたします。
THE,元祖執事BL。
舞台は革命直前のフランス。
色恋にうつつを抜かした没落貴族に仕えるクールな執事クロード。
二代にわたり主人に忠誠を尽くし、愛を注ぐひたむきさが胸をえぐります。
最初のだんな様とクロードとは、プラトニックな主従関係で、密やかな愛をクロードが隠し持っていただけですが、だんな様が息を引きとる最後の言葉は「クロード息子のように愛していたよ」でした。
二人目の主人は執事クロードが赤子の頃からお世話しただんな様の子、金髪の美貌と血筋が取り柄なだけの生意気小僧アントワーヌ。
アントワーヌの亡き母は浮気三昧の夫に悩まされいつもヒステリーを起こしていた。
そして父親譲りの奔放さで人々を魅了するアントワーヌ。でも対象は普通とは違って…
あどけないアントワーヌからの質問
なあクロード
これは亡くなった母上のたたりなのかな
父上のようになれないから
父上は私の年にはメイドや宮廷の侍女と悪戯をしていたって
僕、その悪戯を近衛の隊員さんとやっちゃったんだ
ちょっ…近衛の隊員さん=ベルサイユの薔薇のオスカル?(鼻血)いやアレは女だったか(ややこしい)
先代の散財で没落し、多数の使用人が逃げ出した後も、アントワーヌは何一つ不自由しないで育ちます。
全てはクロードのやりくりの賜物とも知らず。
飢えもなく、身の回りの世話を受け、舞踏会へ通い。
一見、気楽なバカボンボンと吐き捨てたくもなりますが、このように育てたのは他ならぬ執事クロード。
クロードの台詞抜粋
その贅沢に慣れた口が
黒パンを齧ったり
水のような安ワインを飲むのを見るくらいなら
死んだほうがましです
幼少の頃からアントワーヌの想い人はただひとりクロード。バカボンボンで尻軽ながらも愛だけは一途。
それを軽くかわしながらも、クロードのアントワーヌへの愛はもっと深く重い。
フランス革命勃発の日、クロードはアントワーヌを逃亡させるため、離別を宣言します。執事ではない身分になって初めて、想いをアントワーヌに告げます。
暇を貰う宣言後のクロードの台詞
さあ覚悟なさい
私はつくりもののあえぎ声で
ぼっちゃまのお相手をしてきた
可愛らしい小姓達とは違いますよ
腰が砕けるほど
あなたを愛してさしあげる
初めてクロードが吐露する熱情。
これぞ極上の大人が醸し出す殺し文句。
執事という足枷は、愛を語るには何と重かったことか。
これぞ身分違いの真髄。
この二人は情事のシーンになると下克上ラブになりますが、ワンシーンだけ触ってほしいと懇願するアントワーヌのに足元へとクロードがひざまずき、足の甲に口付けるシーンがあります。
映画のワンシーンのように美しく、官能的で切ないのです。
ずっと胸に残る台詞ひとつ。
忘れられないカットひとつ。
読者の心に刻まれれば、作品は永遠に生き続けるのではないでしょうか。
しかし、この作品はそういった台詞やカットが数多く散りばめられているのです。
満足いく感想が得られることでしょう。
お気楽お子ちゃまアントワーヌと冷酷な突っ込み満載のクロードのコミカルなやり取りも逸品なのですが、冒頭に掲載された革命30年前のクロードのおじから続くもうひとつの貴族の物語とも絡み、ドラマティックという言葉が似合う良作です。
さあ、時がたっても決して色褪せない本物の逸品を堪能あれ。